« GoGo丸で謹賀新年! | トップページ | ロシアの軍事侵攻を見てあらためて気づく、ジャムおじさんの恐るべき遠謀 »

2022年1月18日 (火)

国産初のオートマチックトランスミッション(AT/自動変速機)搭載車は?

次の5台のうち、国産初のオートマチックトランスミッション(AT/自動変速機)搭載車はどれ?
オートマチックトランスミッションの定義は、下記の通りとします。
クルマの速度やアクセルペダルの踏み加減に応じて、自動的にギヤチェンジをする変速機のこと。クラッチ機能とトルク変換機能をあわせもつトルクコンバータと変速ギヤ列をもつトランスミッション部で構成される。(大車林)』

・オカムラ ミカサ・サービスカー・マークI (1957年発売)
 トルクコンバータ + 前進2段・後進1段の手動変速式トランスミッション

・オカムラ ミカサ・ツーリング (1958年発売)
 トルクコンバータ + 前進2段・後進1段の手動変速式トランスミッション

・トヨペット マスターライン (1959年発売)
 トルクコンバータ + 前進2段・後進1段の遊星歯車式トランスミッション(油圧回路の切り替え(変速)は手動)

・マツダ R360クーペ (1960年発売)
 トルクコンバータ + 前進2段・後進1段の平行軸歯車式トランスミッション(変速は手動)

・トヨペット クラウンカスタム (1963年発売)
 トルクコンバータ + 前進2段・後進1段の遊星歯車式トランスミッション(油圧回路の切り替え(変速)は自動)

あくまでも私見ですが、この5台の中でオートマチックトランスミッションの定義に合致する変速機を備えた"AT車"と呼べる車両はクラウンカスタムのみで、他はすべてトルコンによるクラッチレスの2ペダルMTだと思います。(平行軸歯車式トランスミッションとは、一般的なマニュアルトランスミッションのことです)
故に、国産初のオートマチックトランスミッション(AT/自動変速機)搭載車はクラウンカスタムだと私は考えます。
 
もちろん、ここに挙げたクルマはすべてAT限定免許を取得していれば運転することができます。
道路交通法でいうAT車とは"クラッチの操作装置を有しない自動車"のことで、変速が自動か手動かは問いません。
手動で変速するスポルトマチックもパドルシフトも、道路交通法ではATとして扱われます。
つまり「AT限定免許で運転できる=クラッチ操作が不要」でしかありません。
変速操作が不要(自動変速)であることと、クラッチ操作が不要であることは全く別の話ですから、混同しないようお気を付け下さい。
 
トルクコンバータとは、フルードカップリング(流体継手/流体クラッチ)に回生機構を組み込んでトルクを増幅できるようにした動力伝達装置のことです。(トルクコンバータを製造しているユタカ技研のHPでもそのように説明されています。)
そして、オートマチックトランスミッションとは、車速やアクセル開度に応じて自動的に変速(ギアチェンジ、シフトアップやシフトダウン)が行われる変速装置のことです。
トルクコンバータに手動変速機(MT)を組み合わせたものを、オートマチックトランスミッションと称するのはどうなんでしょうね?
 
因みに、自動車技術会では1959年に発売されたトヨペット マスターラインに搭載されたトヨグライドを"日本初のトルクコンバータ付きオートマチックトランスミッション"としています。
https://www.jsae.or.jp/autotech/8-1.php
また、株式会社オカムラは自社のウェブサイトに「ミカサはオカムラが1955年に開発した日本初のトルクコンバータ式オートマチック・トランスミッション車」と記載しています。
https://www.okamura.co.jp/company/topics/award/2015/mikasa_AT.html
自動変速装置を持たないこれらの車両が"日本初のトルコンAT車"とされているのは、トルクコンバータ自体を"変速機"と規定しているからだと思われます。
 
がしかし! トルクコンバータの性能曲線図を見れば分かるように、トルクコンバータに変速という概念はなじみません。
220208_torque-converter
トルクコンバータの入力軸と出力軸の回転数の差(速度比)は、伝達効率によって生じるもので、これは例えるなら機械式クラッチにおける半クラッチのようなものであり、入力軸と出力軸の回転数の差が大きい=伝達効率が悪い(クラッチの滑りが大きい)、入力軸と出力軸の回転数の差が小さい=伝達効率がよい(クラッチの滑りが小さい)と考えることが出来ます。
トルクコンバータの速度比は、歯数の違う歯車の組み合わせによって回転速度の比率を変える変速機における変速比とは、だいぶ趣が違います。
ただ、トルクコンバータは入力軸と出力軸の回転数の差が大きいと、盛んに回生が行われるためトルク比が大きくなるという特性があります。
速度比とトルク比は相関し、これらはシームレスに変化するため、感覚的に無段変速機に近いものになります。
故に、「トルクコンバータは変速機である」ということになるのでしょう。(あくまでも素人考えです)
とはいえ、トルクコンバータによって得られる"変速効果"は大きなものではないため、別途トラストランスミッション(変速機)が必要になる訳です。
 
トルクコンバータの無段変速機的な特性を自動変速と捉えるなら、国産初のAT搭載車はオカムラのミカサ・サービスカー・マークI ということになるでしょう。
いや、トルクコンバータは単なる動力伝達装置だ!と考えるなら(私はこっち派です)、油圧回路の切り替え(ギアチェンジ)を自動で行う遊星歯車式トランスミッションを搭載したトヨペット クラウンカスタムが国産初のAT搭載車になるかと思います。

(2022/02/08追記)
本邦において、自動車関連で使われる"変速"という言葉には、大まかにいうと以下の2つの意味があるかと思います。
1.歯数の異なるギアや、径の異なるプーリーなどを用いて減速や増速を行うこと。この場合、回転速度と回転トルクはトレードオフの関係になる。減速や増速の比率を変速比と呼ぶ。
2.変速比の異なるギアの組み合わせを選択する操作のこと。ギアチェンジ、シフトチェンジ、シフトアップ、シフトダウンなどと呼ばれる動作のこと。
"自動変速機(オートマチックトランスミッション)"という呼称に使われる"変速"の意味は2だろう、というのが私の考えです。
したがって、トルクコンバータによってクラッチレス化されても、ギアチェンジが機械的に自動で行われないものをオートマチックトランスミッションと呼ぶことには抵抗を感じます。
また、フルードカップリングに回生装置を組み込んだトルクコンバータには構造上1に該当する機構が存在せず、直結や増速することが出来ないためトルクコンバータは動力伝達装置だと私は考えます。
"変速機"と"変速機的な動作をする機械"を一緒くたにするのは誤解を招く元ですから、やはりきちんと分けて考えるべきでしょう。
 
  
 蛇足になりますが、本邦におけるトルクコンバータの研究は実は戦中から行われておりまして、その研究は戦後も続けられいすゞと東京大学 生産技術研究所の石原助教授が共同で開発した大型トラックやバス用のトルクコンバータ(MT10)が昭和26年6月に完成しています。
そして、このトルクコンバータに組み合わせるオートマチックトランスミッションも一緒に開発されまして、スライディング・ギアを使用した前進2段・後進1段のオートマチック・トランスミッションは、橋爪さんという方が考案したニューマグネティック・コントロール・システムで制御されたそうです。
ニューマグネティック・コントロール・システムがどういうものか詳しいことは分かりませんが、制御にマイクロスイッチを使ったようです。
この大型車用のトルクコンバータとオートマチック・トランスミッションは"はとバス"に採用されています。
またMT10の他に、中型トラック用(MT20?)や小型車(乗用車)用のトルクコンバータも開発されました。
MT10と同様に、中型トラック用トルクコンバータには専用のオートマチックトランスミッションが開発されましたが、多板クラッチと遊星歯車を使ったオートマチックトランスミッションは油漏れや多板クラッチの滑りで大変苦労したとのことで、残念ながらモノにならなかったようです。
小型車(乗用車)用のトルクコンバータ(MT30)は、元々漁業用のラインホイラーとして開発されたものでしたが、「自動車に転用できるのではないか」ということになり、東大、トヨタ、いすゞの三者が共同で研究し、トヨペット(具体的な車種は不明)に搭載して試験走行を行った由。
このMT30の研究に参加したことを契機に、トヨタはその後トヨグライドを開発したようです。
 
ということで、乗用車に限定しなければ、国産初のAT搭載車は"はとバス"になるのかもしれません。
また、市販車に限定しなければ、国産乗用車で初めてトルクコンバータを搭載したのはトヨペット(車種不明)ということになりそうです。


 

|

« GoGo丸で謹賀新年! | トップページ | ロシアの軍事侵攻を見てあらためて気づく、ジャムおじさんの恐るべき遠謀 »

その他」カテゴリの記事

コメント

変速が自動であるからトヨペット クラウンカスタムが最初のAT車となる訳ですね。クラッチが無くとも変速が手動ではATと言う感じはしませんね。実際の最初ははとバスと言うのは驚きですが、業務用車両には運転手の労働軽減のために必要だったかもしれません。現在の路線バスもかなりATですし。
アメリカはAT王国ですが、テレビ番組でATにミッションを乗せ換えた30Zが有ったには驚きました。確か後期型トヨタ2000GTには3速ATが有りましたよね。

投稿: スポーツ800 | 2022年1月19日 (水) 午前 08時46分

>スポーツ800さん
コメントありがとうございます。
オートマチックトランスミッションといったら、やはり自動でシフトアップ・シフトダウンが行われるトランスミッションの事だと個人的には考えていますし、きっと一般的にもそうなんじゃないかと思います。
手動でガチャガチャと変速しなければならないクラッチレス車を、これはオートマですと言っても、世の中の殆どのドライバーは納得しないんじゃないでしょうかね。
恐らく、「このクルマはAT限定免許で乗れますよ」と言われて、初めて納得されると思います。
本邦におけるAT搭載車の嚆矢が"はとバス"というのは、本当に驚きの事実でした。
ただ、開発者のお話ではトラブルが頻発したようで、「はとバスさんには大変ご迷惑をかけた」と述べられていました。
昭和20年代の技術レベルでは、トルコンやATの実用化は難しかったのでしょうね。
そうそう、マイクとエドのあの番組では、S30ZのAT車をMTにコンバートしていましたね。
それと、仰るようにトヨタ2000GTの後期型には3速ATが設定されていました。
トヨタ謹製の仕様書には、トランスミッションに関して以下のように記載されています。

MF10-C型
流体継手・・・・3要素1段2相式 (当時の一般的なトルコンの形式です)
変速機 ・・・・前進3段 全自動 フロアシフト

トルコンは流体継手として扱われていて、変速機が全自動型となっています。
これこそ、私が考えるオートマチックトランスミッションの姿です!

投稿: mizma_z | 2022年1月19日 (水) 午後 08時30分

確かに法規上は同じ分類とは言えオートマとセミオートマは技術面では別物ですからねぇ…
オートマの車を探してる人にパドルシフト付きの車を持って来たら間違いなく怪訝な顔をされる事でしょう。
そう言う意味では自分もトヨペット クラウンカスタムが国産初のAT搭載車と言う見解に私は異論はありません。

国産初のAT搭載車は”はとバス”という事実には少し驚きですが、
ドライバーの負担軽減とそれによる効率化という意味では業務用車両に先行して搭載されるのは納得ですね。
今や乗用車に当たり前に搭載されているバックカメラも最初はバスやトラックの死角を少なくするための物でしたから。

そして少し予想はしてましたが初期の自動変速機の研究にトヨタも参加してましたか…
つい最近も86に搭載されていたアイシン製のATが世界最速クラスの変速を実現してましたし、
自分がトヨタ贔屓なのもありますが、矢張りあの会社の先見の明と技術開発への熱意は目を見張るものを感じます。

投稿: 通りすがりのニワカモタスポファン | 2022年1月24日 (月) 午前 12時07分

>通りすがりのニワカモタスポファンさん
コメントありがとうございます。
私と同意見と仰って頂けると嬉しいですし、大変心強いです!ありがとうございます。
それと、トルクコンバータは鉄道車両(機動車)での実用化が先行していたようなので、おそらく自動車でも大型車用のものから開発されたのだと思います。
故に、戦後間もない頃に"はとバス"で使われることになったのだと思います。
職業ドライバーにとってイージードライブ化の恩恵は大きいですから、仰るようにいち早く導入されたのでしょうね。
ただ、"はとバス"に使われたATは、あまり上手くいかなかったのが残念なところです。
乗用車用の小型トルコンの研究にトヨタが関わったのは、おそらく当時乗用車を自前で開発・生産していたのがトヨタだけだったからだと思います。
当時の日本における自動車のメーカーの御三家といえば、トヨタ、日産、いすゞでしたが、日産が戦後 本格的に乗用車の生産を始めたのは1952年にオースンチン社と提携してからです。(オースチンA40をノックダウン生産しました)
いすゞは、1953年にルーツ社と提携してヒルマンミンクスをノックダウン生産したのが、戦後の乗用車生産の嚆矢になりました。
トヨタは、小型乗用車のトヨペットSA型やSD型などを1940年代後半から生産、販売していたので、これらがトルコンのテストベッドとしてちょうどよかったのだと思います。
トヨタは、日産やいすゞのように外国メーカーからの技術供与に頼らず、独立独歩で乗用車の開発に取り組んだからこそ、いすゞと東大がやっていたATの研究に絡めた、ということでしょうね。
外国メーカーの技術を素早くキャッチアップするには、技術提携は良い方法だと思いますが、自主開発に拘ったトヨタやホンダが大きく飛躍したことを考えると、やはり"王道に近道なし"なんだなぁとつくづく思います。

投稿: mizma_z | 2022年1月24日 (月) 午後 07時34分

私も「変速」と「駆動の断続」は別であると考えます。
シルバーピジョンなどの2輪車のプーリー&ベルトは明らかに自動変速ですが4輪には同様な機構は無かったのでしょうか?
☆レンジのホンダマチックもトルコンの特性を生かしたものですが、「自動変速」という概念からは外れそうですね。実際Lレンジからスタートしないとカッタルかったです。

投稿: 純自家用 | 2022年2月12日 (土) 午前 12時15分

そうそう、オランダのDAFがありましたね。

投稿: 純自家用 | 2022年2月12日 (土) 午前 12時21分

>純自家用さん
コメントありがとうございます。
トルコンと変速機にはそれぞれ役割がありますから、混同して考えるのはやはりちょっと違いますよね。
ホンダマチックは、ホンダらしいユニークな機構でしたね。
ホンダマチックではトルコンのステータの反力でミッションの油圧のコントロールを行った点が画期的だったと思います。BW社のATよりも油圧のロスが少なくて高効率だったようですね。
それと、第一世代のホンダマチックは小型化して、サプロク軽のFF車に使えるようにした点も画期的だったと思います。
N360に使われたホンダマチックは、小型ながらもフルオート(自動変速)でロックアップ付きですから、ホンダの技術者(ホンダマチックを開発したのは、実は元オカムラの技術者 ^^;)は凄いですね。
☆レンジ付きの第二世代のホンダマチックは、仰る通りNのものとは違ってトルコンの無段変速的な機能を利用したものでした。
ミッションは補助的な役割で、通常よりもトルク比を大きしたトルコンで無段変速機的に走らせる仕組み。☆レンジで一応スタートからトップスピードまでのすべての速度域をカバーできるようになっていましたが、トルコンは伝達ロスがあるので、やはり走りはちょっとダルかったようですね。
DAFのバリオマチックは自動車用CVTの元祖的なものですよね。

投稿: mizma_z | 2022年2月12日 (土) 午前 11時16分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« GoGo丸で謹賀新年! | トップページ | ロシアの軍事侵攻を見てあらためて気づく、ジャムおじさんの恐るべき遠謀 »