【用語解説】造形課に於ける“プロトタイプ”とは
【2012/01/26】 補足説明を追記しました。
*****************************************************************************
初代フェアレディZ(以下S30Zと表記)のデザイン開発の過程で作られた原寸のモックアップには、クレイモデルとプロトタイプの二種類がありました。
クレイモデルはその名の通り、工業デザイン用のインダストリアルクレイを木型に盛り付け、それを削りだして造形したモデルであることは、皆さんよくご存知だと思います。
下掲の画像は、クレイモデルの一例です。
(クリックで拡大表示)
クレイモデルはソリッドモデルなので、エクステリアのみが造形されています。
では、プロトタイプとはどんなものだったのでしょうか?
↓こちらはプロトタイプの画像です。
(クリックで拡大表示)
ご覧のように、プロトタイプはソリッドモデルではなく、インテリアが造り込まれていることが分かると思います。
…が、残念ながら、部外者にはそれ以上のことは分からないですね。
例えば、プロトタイプの材質は何で、どのように作られたのか、ということは画像を見ただけでは判断できません。
そこで田村久米雄氏に、デザイン開発の過程で製作されたプロトタイプについて解説して頂きました。
ちょっと順番が前後してしまいましたが、当ブログのS30Z関連のエントリーを読む際の予備知識として、以下の解説を頭に入れておいて頂けたらと思います。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
クレイモデルでリファイン作業をし、総括展示で(正確には展示会の後の「総括会議」の場で多数決で決定される)承認されたモデルのみがプロトタイプの製作を許可されます。Mさんの関わっていた「アドバンス・スタジオ」時代から「マルZ計画のスタジオ解散」に至るまでの間で、プロトタイプの製作が承認されたのは、私が吉田さんの後を引き継いでボディサイドにキャラクターラインを加えたモデル(私が手掛けたクレイモデルで唯一、公表されているモデルで、テールの処理が未完成で、ドアハンドルも410のものを装着したままの、ボディサイド以外、吉田テイストのままのモデル)が最初です。これでプロトタイプを造るぞと言われて吉田テイストのほとんどを修正し、このプロジェクトにおける最初のプロトタイプ(CA案)が完成しました。
プロトタイプは総括展示のために塗装仕上げをされたクレイモデルをベースに試作部の部隊が造形課のモデルルームにやって来て、型取りの作業をします。艤装したモール類をはずしてから、ボディをルーフ・フロントフェンダー・ボディサイド・リアフェンダー・フード・テール・サイドシル・フロントエプロン・リアスカートにパーティングラインを入れながら、石膏で型取りします。これを試作部に持ち帰って、パーツごとにFRPで成型し、内部に補強を加えてボディ形状に組み上げます。プロトタイプはインテリアのデザインも再現しますので、インパネはFRP(ビニールレザー部は実物で型取りして)で、シートやインパネは実物のビニールレザーで再現します。
プロトタイプのボディカラーはカラーリング・スタジオが一押しのカラーを指定します。
ウインドーやランプカバーなどはアクリル樹脂を真空成型して艤装されます。
当時、クレイモデル1台でも300万円(管理費コミ)、プロトタイプモデルは500〜600万円掛かると言われていました。
(2012/01/26追記)
我々造形課のスタッフは毎日、インダストリアル・クレイと格闘していましたが、試作部には板金加工の職人が沢山居て、0.8〜1.6ミリの鋼板、SUSをハンマーひとつで叩き出して加工してくれる名人クラスの人材が大勢居てくれたことが感謝です。
プロトタイプや試作車などは、数10〜100万円もコストの掛かるプレス型を造る前ですから、部分的にベンダーなどの機械を使うことがあったのかも知れませんが、基本的に手加工でバンパー、オーバーライバー、ラジエーターグリル、ウインドーモール、サッシなどを製作してプロトタイプ・モデルに艤装してくれていました。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++追記ここまで+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
過去の文献を見てもプロトタイプのベースとなったクレイモデルは全く公表されておらず、’68年初期のCA案プロトタイプ2号機、3号機、’68年末の試作車のみが掲載されています。これ以外にもオープンモデル・タルガトップ・2+2モデルなどのプロトタイプを作ったようですが、これらは造形課の承認したものではなく、Mさんが勝手に試作部に発注していたようで、当時、造形課で大問題になっていたそうです。(車に詳しいと言っているMさんが、2シーターのクローズドボディで計画していたプロジェクトで、ルーフを外したらボディ強度が保持できず、センター部とサイド部に大幅な補強を加えなければならなくなり、室内の居住空間が制約されることになるのは解っているはずなのに、なぜこんなことをしたのか大いに疑問です。プロトタイプの形はできても、これでは実用車としては成り立たないのです。バリエーションを考えていたと言っていますが、マルZ計画の命題にオープンモデル・タルガトップ・2+2モデルはありませんでした。
アドバンス・スタディ時代からマルZ計画のプロジェクトで製作されたプロトタイプは結局、CA案のみで、A案、B案、C案、D案、E案はクレイモデルのみで終わっています。
ところで、4気筒のプロトタイプ以降、6気筒のプロトタイプに至るクレイモデルはどこにも見当たりませんでしたが、三樹書房のFAIRLADY Z STORYの98ページにファイナルに近いプロトタイプが2枚写真に残っていました。1枚はシルバーメタリック塗装、もう1枚はダークグレイ塗装のモデルです。ダークグレイモデルは造形課のあった設計センター4階のプレゼンテーションルームで撮られたもので、シーリングのルーバー照明がハイライトを邪魔してしまっています。いずれもリアクォーター・ウインドーがファイナルの形ではありません。100ページに掲載されている試作車がファイナルの形です。
プロトタイプではバンパーは端面にラバーを装着し、オーバーライダーは後端まである形ですが、100ページの試作車ではリアのオーバーライダーの下端が中途半端な形でカットされてしまっています。Cピラーにスリットを入れたり、オーナメントを付けたりするのがMさんの好みだったようです。
(2012/01/26追記)
クレイモデルを塗装、艤装仕上げをして「総括展示」が終わると、次の課題のため塗装を剥がし、リファイン作業に掛かり、次の1〜1.5ヵ月後に向けて修正作業を進めています。プロトタイプを造ることになると、試作部が型取りをしてから2〜2.5ヵ月後にプロトタイプが出来上がって来きますが、我々は前回のクレイモデルのリファイン作業を1〜2段階、経た作業をしていますので、プロトタイプが出来上がって来ても、「やっと出来たか」といった感想しか持っていませんでした。
CA案は4気筒仕様から6気筒仕様に変更された時も、クレイモデル自体は修正しているので写真記録でしか見ることが出来ません。
私の記憶では全巾が広がり、全高が低くなった時も、ホイールベースは変更されなかった(数10ミリ長くなったのかもしれませんが。)と思いますが、4気筒仕様と6気筒仕様のクレイモデルの変遷をMさんが全く公表していないので、プロトタイプモデルでしかこれらの違いを確認できないのが残念です。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++追記ここまで+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
| 固定リンク
「Nissan Fairlady Z(S30)秘められた真相」カテゴリの記事
- 初代フェアレディZ (S30型)のTest Mule(2025.12.19)
- ボクの宝もの(2021.12.02)
- 日産の職制コード(部署コード)について(2020.05.22)
- 廉価版トヨタ2000GT(390A)と初代フェアレディZ(S30Z)の共通点(2020.05.07)
- 【追想】デザイナーの想い 【田村さんが遺した言葉】(2020.04.05)



コメント