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2013年9月 2日 (月)

【Nissan】ブルーバード 510型のホイールカバー デザイン秘話 【Datsun】

田村久米雄氏より、三代目ブルーバード(510型)のホイルーカバーをデザインした際のお話を寄稿して頂きましたので、以下に掲載します。
内容としては、510ブルのデザイン開発史のほんの一部分ですが、エクステリアのパーツが製品になるまでの過程が詳細に記されており、大変興味深い内容です。
510マニアのみならず、カーファンなら誰でも興味を惹かれる内容だと思いますので、是非ご一読下さい。
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 モータリーゼイションの最盛期、自動車メーカーのデザイナーとして「日産を日本一の自動車メーカーにしよう、日本の自動車メーカーを世界に認めさせよう」と意気込んでいた当時24,5歳の若造だった私の体験を記録としてお伝えします。
 3代目ブルーバードのデザインを担当した内野さんの(プラットフォーム)デザインをサポートしてセダンのデザインが承認され、生産展開に移りますが、アシスタント・デザイナーのトップは「ラジエーター・グリル」のデザインを任されます。これを任されたのは高卒ですが私より3,4歳年長の打木さんでした。「テール・ランプ」のデザインを任されたのは私より1年後輩ですが学卒の増山さんでした。これらのデザインは構成要素(パーツ)が多く、アッセンブリー図に至るまで数十のパーツのデザインを図面にしないと完成できない数カ月に亘るアシスタントとしては名誉な仕事です。
 No.3のアシスタントであった私にはバンパー、オーバーライダー、ホイールキャップ(スタンダード仕様)・ホイールカバー(DX用・SSS用)、ドアハンドル、エアアウトレット(セダン仕様・クーペ仕様)のデザインを担当するよう指示されました。私より若いNo.4のアシスタントはサイドマーカー、モール(フロント、ドア、サイドウインド、リアウインドなど)のデザインを担当します。
 バンパー、オーバーライダーは既にフルサイズ・クレイモデルでのモデリング中に私がデザインを担当していましたから、これらは計測データをベースに図面化する作業でした。
 ホイールカバーのデザインはフルサイズ・クレイモデルの段階ではデザインしておらず、有り合わせのホイールとホイールカバーを装着してプレゼンテ―ションしていましたから、生産展開に当たってはレンダリング(細密スケッチ)を描いてチーフデザイナーである内野さんの承認を受ける作業から始まります。
 スタンダード仕様のホイール・キャップはシンプルにデザインし、直ちに承認されましたが、DX用のカバーは少々難産でした。端正なプラットフォームのデザインに相応しく、当時、スプートニクが宇宙を飛んだり、アポロが月面着陸を果たした頃でしたので、私は優雅に宇宙を回遊する宇宙ステーションをイメージして同心円状のホイールをデザインしました。内野さんはこのデザインを承認してくれましたが、試作段階(小糸製作所が担当)で難航しました。凹凸の激しいデザインだったので当時の国内のスチールではクラックが入ってプレスできない(アメリカのモデルでは出来ていたレベルだが、当時の国産鋼板では無理だったようです。)と云われ、どうしても自分のデザインを通したかったので「国産初のSUS製ホイールカバー」となりました。本社商品部からは通常の倍もコストの高い事でクレームを付けられましたが、内野さんはDX仕様にはこのデザインが必要だとアピールしてくれ、スタジオチーフの飯塚英博さんも強力に援護してくれて、やっと承認されました。
 DX用のホイールカバーではコストの面で上司に迷惑を掛けてしまったのでSSS用ホイールカバーでは凹凸の少ない(それでもセット面から60mmも出っ張ったデザインで、これはスポーツモデルなのでスパルタンなローマ帝国時代の2輪戦車のスポークをイメージしてデザインしました。)通常のスチールでもプレスできるデザインとしました。唯、凹凸を少なくする代わりに奥行きを出すために、当時、どこも採用していなかった「マットなダーク・シルバーメタリックのシボ塗装の焼き付け」(光沢の無い凹凸のある塗装は耐侯製に問題があると言われていた。)を依頼しました。試作を担当した小糸製作所は関西ペイントに共同開発を依頼し、耐侯性の高い塗装を実現してくれ、これまた国産自動車業界初の採用でした。
 この一連のホイールカバーは当初、量産は内製(日産自動車で生産)で、試作のみ小糸製作所にオーダーするとの方針でしたが、国産初のSUSプレス成型とマットブラック、シルバーメタリック・シボ塗装焼き付けが内製では出来ないとのことで、全量小糸製作所に発注されたそうです。
 通常、生産展開の試作では試作を請け負った企業は木型を持参して承認してくださいと云ってくるのですが、510のホイールカバーのデザイン承認では試作を担当した小糸製作所はなんと、プレス型を起して成型したモデルを持って来たのです。「型を起しても、まだ承認していないんですよ」と云ったのですが、「型を起してプレスして、焼き付けなければ承認いただけないと思いまして」と小糸の部長さん(当時、私は日産設計の平の造形課デザイン担当者でした)がおっしゃっていましたが、嬉しい事に510のホイールカバーは全量小糸製作所に発注されたそうです。こんな事が有ると担当デザイナーは心から嬉しくなるのですが、510のSSS用ホイールカバーは発売以降10数年の間にSSSの販売数の4.5倍以上売れ続け、メキシコ、東南アジア、インドなど海外でミニバスとして利用されていたマツダボンゴ、トヨタライトエースのホイールに装着されている事が多かったと日産を退職してから10年以上も経った頃、日産の広報部から聞きました。こんなこともデザイナーとして誇りに思える出来事でした。

*日産を退職してから数年後、当時の同僚数人から聞いたのは、承認の伺いを外注業者が申請(設計図を基に試作品を評価して、その図面に承認のサインをすることで、設計部署に配布できる状態にする)してきた折に、担当デザイナー達は家の新築、出産、進学など暗に見返りを要求することが皆、普通にやっているよと聞いた時には驚愕しました。これが、官僚的な必ずしも良いものが認められない、優れたデザインが生き残れない根源なのかと思い知りました。
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